中谷巌著『資本主義はなぜ自壊したのか』(集英社インターナショナル)、面白かった。
《商品はこちらから→ 資本主義はなぜ自壊したのか 「日本」再生への提言
》
発行年月日は2008年12月20日。。。なんだけど、今日はまだ12月14日だよ。あれ?ま、いいや。発行年月日ってそういうもんなのだろう。
どこが面白かったかといえば、日本の「構造改革」を積極的に推進してきた役者のひとりである著者が、その改革の結果、日本のよき「一億総中流」社会が壊れてしまい、人々の関係が冷たくなり、格差社会となり、ワーキングプアが増え、社会不安が増大したという現状を考えて、過去の自分の「新自由主義」的考え方が悪かったと「ざんげ」した書だという点。
市場原理主義だとか、新自由主義、日本においてそれを強力に推し進めてきた「小泉・竹中構造改革路線」に対する批判でいえば、内橋克人『悪夢のサイクル』とか、森永卓郎『こんなニッポンに誰がした』なんかを読んで「うん、うん!」と激しく共感していたけれど、いわば小泉改革路線を下支えしてきたような人がその考えを改めた(本人いわく、「転向」した)うえで書いた本なので、また違った趣があって良かったと思う。
しかも、この時期にあってタイムリーであったことも刺激的でよかった。リーマンショック以降の話まで出てくるのだから、、、そのためか、じっくり書かれたものではないらしい。そりゃそうだ、つい最近の出来事を話題にしているのだから、経済学の専門家ではあっても短期間に詳細で緻密な「お堅い」話を書き上げるのは時間的に無理があるだろう。逆にそのためにオレみたいな素人でもたいへん読みやすい。たとえばサブプライムローンの本質的な部分についても…
《 サブプライム・ローンとは結局のところ、アメリカ系証券会社のエリートたちが、住宅ローンの対象になりそうもない貧困層を食い物にして、自分たちだけが儲けるために作られたかなり「いかがわしい」金融商品であった。 》 (P.26-27)
といった感じで非常に簡潔に本質を話してくれる。
著者自身もアメリカ留学によってすっかり感化されたという「新自由主義」思想のある種の「うさんくささ」に対して、なぜ高名な経済学者たちからもっと真剣な議論が出てこないのか!という点についても…
《 おそらく、新自由主義思想というのは単に学術的に、あるいは論理として「正しい」ということで支持を集めたというよりも、一部の人々、はっきり言ってしまえばアメリカやヨーロッパのエリートたちにとって都合のいい思想であったから、これだけ力を持ったのではないか。 》 (P.61)
《 …政府の干渉が減り、規制が緩和されたマーケットが実現すれば得をする勢力がいたからこそ、これだけ「自由競争の神話」が広がることになったのだと考える。新自由主義思想は金融や投資の世界に暮らす人々にとっては、まさに歓迎すべき思想であったのである。その意味においては、アメリカ経済学や市場原理主義とはエリートたちの「支配のツール」にすぎないとさえ言えるのではないだろうか。 》 (P.112-113)
唐突だけど、オレもいってみれば「中産階級」に属した人間だ。今現在は決して余裕のある生活ではないけど、いわゆるワーキングプアと呼ばれるほどの人間ではない。けれどあきらかに昔の(子どものころの)日本の「中流」的風景へのノスタルジーはある。今は…周りを見ても、とくにお客さんと日々接している立場からすると、なんとなく「さびしい」気分になることがある。なんで日本人はこんなに「せこく」なってしまったのだろうと思う。ガソリンスタンドで働いている経験からいえば、1円、2円の違いでうるさく言われることが多くなり、そのたびに「安売り店と比べて高いと言われるけど、よく考えたら満タン給油したってたかだか総額で100円くらいの違いじゃないか。あなたはジュース1本買うのを躊ちょする生活してるの?」と愚痴りたくなる。もちろんこの不況でなるべく生活費を切り詰めている気持ちもわかるし、そういう時代だからこそ数円安いだけでも得した気分になる消費者心理もわからなくはない。だけど、、、どこか精神がすさんでいるように感じられてならない。オレはどちらかといえば「武士は食わねど高楊枝」的なものに美的感情を抱く方だから余計そう感じるのかもしれないが、、、
そういう意味でも、著者の「古きよき日本人」論には共感を覚えるし、今の現状を嘆くあたりにも共感を覚える。そして次のような話にも…
《 島国社会に長く暮らしてきた日本人ができるのは、せいぜい地道に正直にモノを作ったり、誠実第一で商売して他者の信頼を勝ち取っていくという、長期的な戦略でしかない。たしかに、そういった日本的な生き方は、けっして派手でもないし、スマートでもない。…(中略)…我々はたとえ不格好で不器用であっても、覚悟を決めて、長期的に信頼を勝ち取るという方向を今後も維持すべきではないだろうか。 》 (P.319-320)
もちろん、著者は日本の特殊性ばかりを美化して人間としての普遍的価値については考えてないというわけではない。あくまでこの日本をどうすべきかという観点からの話であると理解する。
また「構造改革」をすべて否定しているわけではない。無駄な官製事業をなくしていくことには賛成しているし、市場メカニズムの利点もちゃんと述べている。ただ、少なくともオレの印象では、安倍元総理がしきりに言っていた「経済成長の果実を国民に還元できる」などというのは幻想であり、新自由主義的発想ではますます格差は拡大していくとキッパリ言っていると思う。
痛快なのは、いまだに「小泉構造改革」信者が言っている《 貧しい若者がいるのは、日本社会の改革がまだ中途半端だからだ。もっと構造改革を進め、所得税の累進課税もさらに緩め、やる気のある人にインセンティブを与えれば、雇用も増えるから貧困も減るはずだ 》 (P.310) という議論を引いて、それに意見をぶつけているところだ!
最後のころの著者による「日本再生への提言」の章もなかなか新鮮な話でよかった。税制改革のやり方、社会保障制度の拡充策、そして消費税の「逆進性」を解消する「秘訣!」である「○○○付き消費税」構想(あまりネタばれ書くとやばそうなので、気になったら読んでもらうとして)、北欧の高福祉高負担の内実についてなどなど、、、
最近のコメント